こやのかずこ作品解説

(別冊マーガレット時代 [後期]:1972〜'74年)

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(仮想) こやのかずこ選集 [文庫本版] 原画コレクション 未発表作品

 こやのかずこ先生の別マ時代の脂の乗った時期です。当時の別マでは和田慎二先生や河あきら先生の作品も印象的でした。

ラブレターひきうけます デラックスマーガレット1972年冬の号
マーガレットコミックス「ラブレターひきうけます」
 プロボクサー、ジョージ・ルイスの妹のベティに恋したテリーはボクシング部に入部しますが、全然うまくなりません。ところがラブレターの代筆という特技が注目され、学校中の男子生徒から先生までひっぱりだこになります。

 ある日キャプテンのアンソニーから試合に出すかわりにラブレターを書いてほしいと頼まれてはりきります。実はそのラブレターの宛先はベティでした。テリーの詩の効果でアンソニーとつきあうベティ。しかし兄のジョージが試合で怪我をすると、兄目当てのアンソニーはベティをじゃけんに扱います。

 怒ったテリーはアンソニーと大会で対戦することになります。ベティにも少しずつテリーの気持ちが伝わっていきますが…。

 映画「アパートの鍵貸します」(1960年) を彷佛とさせるストーリーですが、自分の力と努力でアタックするのが大事とうまくまとめています。

すてきな外国少女シリーズ 別冊マーガレット1972年4月号〜6月号、全3回
コミックス未収録
 すてきな外国少女シリーズと冠して、国名を添えた3回の連作 (個々の話にストーリーのつながりなし) で、第1回と第2回は脚本家の加藤文治氏の原作です (当時、別マの原作をいくつも手がけていました)。どの作品も簡単にあらすじを説明できないほどストーリーの展開がある長編で、読みごたえがありますが、第1回のノルウェーの地方色を生かした作品はともかく、第2回、第3回では国名を出す必要はなかったように思えます。

 欧米人が主人公の少女マンガはこの頃にはどの雑誌にもたくさんありましたが (例えば本村三四子の「奥様は18歳」も、テレビドラマでは日本が舞台になっていましたが、原作は主人公が欧米人の設定でした)、それらと大きな違いはありません。特に第3回では、冒頭ではアメリカのマイアミが出ますが、すぐに (どこにあるのか分からない) マックス島へ赴き、そこが話の舞台となります。次号の「虹のブロードウェイ」の方がはるかに「すてきなアメリカ少女」の話と言えるのではないでしょうか?

タイトル内容紹介
ノルウェーの巻
灯台よその灯を
  消さないで!
 ('72年4月号)
ノルウェー北部のテンペスト岬で灯台守をしているグスターフ老人の孫娘のマリアンヌは、バイキングの子孫と称する幼なじみのヨハンといつもケンカをしながら仲良くすごしています。しかし灯台の自動化・無人化の計画が進み、さらにマリアンヌが本当の孫でないことが判明し、おじいさんから引き離されます。そんな時に嵐がやって来て、しかも灯台の自動標識装置が故障してしまいます。ヨハンと抜け出したマリアンヌは、灯台へ駆けつけますが…。→原画コレクション参照
イギリスの巻
えくぼちゃんの幸せ
 ('72年5月号)
えくぼちゃんことアップルはロンドンで父親と大道芸人をしていますが、父親の手癖の悪いのが悩みの種。そんな時に、大富豪の息子のアレックにパーティの余興を頼まれます。アレックは実は児童劇団を運営していて、たくさんの人々を楽しませるために、えくぼたちにも参加を依頼します…。
アメリカの巻
ハローキューティ先生
 ('72年6月号)
ナンシーはアルバイトで富豪の息子のマックスの家庭教師になります。ただしナンシーの仕事は足の悪いマックスの遊び相手。そのうちナンシーは、他の家庭教師たちや主治医がマックスを適当にあしらい、マックスもまた彼らと暇つぶしで相手をしているだけなのに気づきます。直情的なナンシーはマックスにまっすぐにぶつかっていきますが…。


虹のブロードウェイ 別冊マーガレット1972年7月号
マーガレットコミックス「燃えるヴァージニア」
左:幻の姉妹愛憎劇。右:テスとポリー
 ポリーはミュージカル・スターをめざすニューヨークの少女ですが、お人好しすぎるために損してばかり。有名なミュージカル・スターのラルフと知り合いになって、ラルフ主演のミュージカル「虹のブロードウェイ」のオーディションにせっかく受かったのに、友人のテスに役をゆずってしまいラルフの不興を買います。テスにも結局見放されてしまいます。

 新星ミュージカル・スターのサミーとは恋仲になりますが…。

 ポリーは自分では虹〜夢〜をつかめないかもしれません。けれど友人のニッキーだけは、ポリー自身がみんなに幸せをわける虹であることを知っています。

 なお、この前号 ('72年6月号) でこやの先生は本作を「同じ道をめざす美しい姉妹の闘いとその愛 いっしょうけんめいかきます よろしくネ!」(はなやかなブロードウェイのスターをめざして、必死の努力をする姉妹。でもふたりの間には、やがて憎しみが…) と予告されていましたが、ポリーの姉妹は出てきません。キャラも違いますし、闘いも憎しみも描かれていません。何がどうなったのでしょうか!? (幻となった姉妹愛憎劇も読んでみたいですね。)

デニーの奇術 (マジック) 大作戦 別冊マーガレット1972年11月号
コミックス未収録
 デニーはパパの影響でマジックが大好きな女の子。いつもマジックを披露してはクラスメートに喜ばれています。しかし成績が下がっているため、秋期特別合宿に行かせてもらうことを条件に、ママと先生からマジックを禁止させられてしまいます。

 ところが合宿でのある夜、銃と爆弾を持った強盗が押し入ってきてデニーたちは人質になってしまいます。命の危険を感じたデニーは一世一代のマジックに賭けます…。

 この話で特に印象的だったのが、デニーが素手でぶ厚い辞書を引きちぎってしまうマジック。実は事前に辞書をオーブンで蒸し焼きにし、乾燥させておいたのです。本当にこんなことができるのか実際に試したことはありませんが、妙に感動して記憶に残った話でした。(作品中でエキストラのこやの先生キャラに「54 kg」と書き込みされています!!)

 なお、この前号 ('72年10月号) の次号予告では、この作品は「恋と奇術師」というタイトルで紹介されていました。

原画コレクション参照

チビという名の女の子 別冊マーガレット1972年12月号
マーガレットコミックス「ラブレターひきうけます」
 あだ名が「チビ」のチビなちひろは何をやってもドジばっかり。結婚する兄のために努力してセーターを編みますが、サイズがやたら大きくなって失敗。ひどく落ち込んでしまいます。

 そんな時に、バスケット部のノッポな男の子に気づきます。彼はバスケで失敗ばかりしていますが、けっしてあきらめずにひとりで練習を続けます。そんな姿を見守り続けるちひろ…。

 そして汗をかいたノッポにちひろは失敗作のセーターをさしだします。ちひろは初めて感謝されるのでした…。

 主人公がドジな女の子というのは少女マンガの定番ですが、笑ってごまかす他のキャラと違ってちひろは生きる希望もなくしてしまいます。しかし人の役にたてたことから元気づけられていく過程が感動的に描かれます。恋愛的要素はそれほど強くありませんが、単なるラブラブで終わらなかった分、感動が増しています。

げに男というものは… 別冊マーガレット1973年2月号
花とゆめコミックス「いただきま〜す!!」1巻
 圭子は寝起きのあらわな姿を隣のアパートの男の子に見られてしまいます。その男子は何とその日、圭子のクラスへ転校してきた戸村周平でした。

 戸村はスポーツ万能でかっこいいのですが、男女関係については時代錯誤的なアナクロニストでした。ところが逆にその点にメロメロにほれてしまう圭子。

 圭子の恋を実らすためにクラスの女子が手伝いますが、策を弄しすぎて逆効果。失恋した圭子は夜道で不良に襲われ、助けにはいる戸村は途中でコンタクトレンズを落としてしまい逆にやられてしまいます。

 けんかの後で戸村は以前から魅かれていた美女に再会します。2人で落としたコンタクトレンズをさがし、やっと見つかるとその美女はいなくなっていました。

 戸村はその美女に再会できるでしょうか?そして圭子の恋の行方は…?

 こやの先生お得意のハチャメチャに楽しいラブコメディです。それにしても「げに」という表現 (漢字では「実に」と書く。実に、まことに、という意味) は今ではほとんど使いませんね。

愛のスクールバス 別冊マーガレット1973年5月号
コミックス未収録
 ミリセント (ミル) は長い巻き毛の美男子ルイスにひとめぼれし、バス通学をしている彼に会うために (バス通学する必要はないのに) 毎朝2時間早起きしてわざわざ同じスクールバスに乗っています。

 ルイスには幼なじみの2人の親友がいて、1人 (黒髪のりりしい男子) とはいっしょにバス通学をしていますが、もう1人の男子 (ボブ) は小さい頃の病気のせいで太っているため、毎日自転車通学をしていました。

 彼らと親しくなるミル。自分の想いは伝えていませんが、ルイスがミルを好きだという噂が友人から伝わってきてミルはぽーっとなります。

 ところが翌朝、雨の中をバスと平行して自転車で走っていたボブが転倒します。あわててバスを飛び降りるルイス。ボブの無事を確かめると、なんとルイスはボブに抱き着いて愛の告白をします!

 茫然となるミル。ミルの恋の行方は…?

 美少年の同性愛をテーマとした少女マンガは、「風と木の詩」(竹宮惠子、1976年週刊少女コミック10号から連載開始) や「摩利と新吾」(木原としえ、1977年LaLa4月号から連載開始) などが古典的名作として思い浮かび、現在のボーイズラブ系 (本屋のこの領域には近寄れない!) へ通じているのでしょうが、さすがに'73年ではそういう方面へは話が進みません (ある意味、残念?)。ルイスは「不潔」、「ちかん」(?) と糾弾され、ようやくミルは自分の思い違いに気がついて話は大団円を迎えます。

Oh!変身!? 別冊マーガレット1973年7月号
マーガレットコミックス「燃えるヴァージニア」
 長い金髪の美女ソフィは美男子のライリーとつきあっていて学園一のカップルと言われています。でもソフィの素顔は近眼、ソバカス、ショートの赤毛で誰もふり向いてくれない女の子。

 しかし無理が続いてとうとう真実がばれてしまいます。当然ライリーにふられてしまうソフィ。そのライリーは誰よりも美人の母親を崇拝していますが、母親のすっぴん顔を見て美女恐怖症になるというオチがついています。

 一方のソフィは、以前からソフィの本当の魅力を見抜いていた美容師のサムに、きどることなくだますことなく自分にあった化粧をすることで魅力を引き出してもらい、本当のしあわせを手に入れるのでした。

 コンプレックス (劣等感) とは自分の他人とは違う点に抱く思いです。でも考え方を変えれば、劣等感と表裏一体の優越感〜長所〜に変わるというこやの先生の考えを示した作品のひとつです。

燃えるヴァージニア 別冊マーガレット1973年10月号
マーガレットコミックス「燃えるヴァージニア」
 100ページの大作です。

 アメリカ南北戦争の時代、南部の農園主の娘ミアは、やさしい両親と兄に囲まれ幸せに暮らしていますが、ある日北部に引っ越した幼ななじみのニールと再会します。やがて南北戦争が始まり、ニールと引き裂かれるミア。その時自分が捨て子だったことを知り、しかも父親が皮肉にも北軍の軍人に殺されてしまいます。

 兄のジェフも昔から秘かにミアを愛していましたが、戦場で出会ったニールの目の前で、ニールの部下に射殺されます。

 時代の運命に翻弄され、炎上するヴァージニアを去るミア。やがて戦争が終わって焼け野原となったヴァージニアへ帰ってくると、ミアは再びこの地で生きることを決意します。そしてニールへの想いを封印するために思い出の場所に来たミアは…。

 南北戦争時代の南部といえば映画「風とともに去りぬ」が有名ですが、そのヒロインと同様に、すべてを失っても生きていこうとするミアの強い意思が描かれます。

雪の夜には毛布をだいて 別冊マーガレット1974年1月号
コミックス未収録
 父親を亡くした苗は、父親が好きだった思い出の毛布にくるまるのが好きです。おとなしくて学校ではほとんど口をきかない苗ですが、父親のように大きな手をした担任の長谷川先生に想いをよせます。

 ドジながら女生徒にけっこう人気のある若い長谷川先生は、偶然苗と同じアパートに引っ越してきます。引っ越しが終わってうたた寝する先生にそっと自分の毛布をかける苗。

 ところがその毛布が同級生に見つかり、2人があやしいという噂が学校中に広がります。長谷川先生は何も知らないのに追求されてたじたじ。そこで苗は勇気を出して、先生にこっそり毛布をかけたこと、父の面影を重ねていることを告白するのでした。

 誤解がとけて笑われる苗たち。しかし苗は自分の本当の気持ちを毛布にくるみます…。少女の想いをしんみりと綴る佳作です。

黒髪 赤っ毛 ちぢれっ毛 別冊マーガレット1974年6月号
コミックス未収録
 床屋の娘のさくらは自分のちぢれっ毛をとても気にしています。何とか黒髪さらさらの同級生の小松さんのようになりたいと思うのですが、手を入れるとかえってひどくなるばかり。

 さくらは想いを寄せている同級生の葉山くんに「それでじゅうぶんかわいい」と言われて喜びますが、何と彼は小松さんと交際していたのでした。

 心の張りが切れて泣き崩れるさくら。やけになって自分の髪を切ってしまおうとしますが、その姿に怒った父親がさくらの髪をバリカンで刈ってしまいます…。

 コンプレックス (劣等感) は自分の気の持ちようだと諭す父親はこやの先生の考えを代弁しています。それにしても父親の好きな髪型が小野田さんヘアとは、時代を感じます (今の人は小野田さんを知っているのでしょうか?)。

昭和ミニコラム

小野田さん:太平洋戦争敗戦後の29年間、終戦を信じずにフィリピンのルバング島の密林に潜んでいた小野田寛郎元陸軍少尉が、昭和49 (1974) 年3月9日に元上官から投降命令を口達され、日本に帰還しました (この作品の発表の直前ですね)。小野田さんヘアとはもちろん軍人丸刈り。小野田さんは一躍時の人となりましたが、後年ブラジルへ移住します。

ついでに横井さん:太平洋戦争敗戦後の27年間、終戦を信じずにグアム島の密林に潜んでいた横井庄一元陸軍伍長が、昭和47 (1972) 年2月2日に発見され、日本に帰還して一躍時の人となりました。横井さんの帰国時の第一声「恥ずかしながら (帰ってまいりました)」は当時の流行語となりました。ちなみにこやの先生は1974年の3月末頃に田中雅子先生と一緒にグアム旅行へ行っています。

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