こやのかずこ作品解説

(別冊マーガレット時代 [前期]:1968〜'71年)

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(仮想) こやのかずこ選集 [文庫本版] 原画コレクション 未発表作品

 別冊マーガレット時代はすべて読み切り作品です。連載ものの続きが読みたいという欲求は生じませんが、毎回趣向の違う作品が読めてそれなりに次回が楽しみでした。紹介作品は多数になるので、前期 (1968〜'71年) と後期 ('72〜'74年) に分けます。分けた時期に深い意味はありません。

ちびっこ天使 別冊マーガレット1968年9月号
マーガレットコミックス「ラブレターひきうけます」
 こやの先生のデビュー作。まだ絵柄に個性は乏しく、当時の誰かの絵に似ているようですが、ストーリー展開はうまくまとめられています。

 エミーはまだ小さな女の子。ママはすでに亡くなっていますが、パパが再婚することになりました。しかし近所の子にまま母はいじわるだと吹き込まれ、落ち込んでいるところから始まります。

 夜になって部屋を抜け出すエミー。そこで優しい男の子ジミーに出会います。ジミーのママは死んだママにそっくりで優しく、この人がパパのおよめさんになればと希望の火をともします。しかしジミーのママもまもなく再婚する予定と知り、エミーは泣きながら家に帰っていくのでした。

 ジミーのママの言葉を思いだして新しいママとうまくやっていこうと決意する幼いエミー。新しいママに会う直前にジミーのママに再会したエミーは自分の決意を告げますが、その後で出会ったパパの再婚相手は…?

 こやの先生が後年得意とするほのぼのコメディーで、主人公の心境の明暗の起伏がハッピーエンドにうまくつながっていきます。

 なお、2ページ目の脇の柱には、「♥このまんがの作者、小谷野和子さんは、少女まんがスクールで金賞をとられた、現在高一のおねえさまです。」と書いてあります。その他、解説が多いのは下の「おねえさん」と同じです。

おねえさん 別冊マーガレット1969年2月号
コミックス未収録
 ひさ子はおてんばで成績も悪く、いつも姉の輝美と比較されています。ある夜、帰宅時に涙を流していた姉に、ひさ子は「ねえさんのこときらい?」と聞かれます。「きらい」とひさ子が答えると、姉は雪の舞う暗い戸外へ出ていきます…。

 16ページの短編で、姉妹愛を描く小品です。ストーリーや画風は西谷祥子作品を彷佛とさせます。

 この作品の雑誌ページ脇の柱にはくどいほどの解説がついています。「人気急上昇のこやのかずこ先生がおくる快調のドラマ、きっとあなたの胸をうつお話よ。」、「うちのあねきはうるさいのよ!それなのに、信吉くんたらモタモタして…でも、そのわけは…」、「どうしてママは輝美ねえさん、輝美ねえさんっていうの、ひさ子だって同じママの子なのに…」、「すました顔して、ねえさん出かけていったけど…それにしてもおそいなあ…」、「おねえさん!どこへ行っちゃうの!ハンドバックさがしに行くなんてうそね…」、「おねえさん、本当はおねえさんだいすき!だからいっちゃあいや…」、「ひさ子も信吉君もおねえさんだいすき!でも、すきっていわないの…」。…うっとうしいような、おかしいような。当時の読者は解説がないと意味が分からなかったのでしょうか、あいているスペースには必ず文字が入れてあります。これが当時の別マの編集のやり方だったのでしょう。

あなぐま先生 別冊マーガレット1969年6月号
コミックス未収録
 24ページの作品で、長編3人集のひとつにあげられています。

 千代子はママの遠い親戚の男性が家に下宿すると聞いて期待に胸をふくらませますが、やってきたのはあなぐまのような岩本五郎でがっかり。しかも千代子の中学の担任の先生になってしまいます。

 学校では優等生の川上由加と何かと反目しあいますが、やがて水島利恵という美人が転校してきます。彼女はなぜかクラスメートとうちとけないので、心配した岩本が千代子に友だちになってくれと頼みます。しかしなかなか心を開かない水島さんには、それなりの理由があったのでした…。

 学園ものとしては定番の設定ですが、楽しいストーリーで、もっと続きがあればと思わせる作品です。例によってページ脇に解説が14個もついています。一部をあげると、「新しく家にくる人を心待ちにアレやコレやと楽しい想像」、「ウヒーッ、これが岩本五郎。想像とはなんと程遠い…ガッカリ」、「こともあろうに、期待を裏ぎったあの人が担任になるなんて…」、「アーア家に帰ってまでこの調子じゃあ…くたびれちゃう」、「こんなこと、このあたしに頼みにくるなんて、何か意味ありそうじゃない」、「いつも何事にも無関心な水島利恵のものすごーいパンチに、みんなただ、もう、あんぐり…」、「水島利恵を孤独にしてしまった大きな原因は、いま利恵自身の口から…」、「カアッコいい!みかけによらず頼りがいのあるあなぐま先生に、みんなゲンキンなこと!」、「…で、またガチャガチャ、ワイワイ、キャーキャー、楽しい毎日がはじまるわけです」。
原画コレクション参照

ハロー幽霊くん! 別冊マーガレット1969年10月号
コミックス未収録
 レナは生前交流のなかった祖父から立派な屋敷を相続します。しかしその屋敷にはレナの500年前のご先祖の、レナにそっくりのクリスチーヌを恋したまま事故死してしまったアランという幽霊が住みついていました。

 アランはレナをクリスチーヌと勘違いして、レナのボーイフレンドのボニイや、レナを口説こうとするプレイボーイのロッドにいたずらします。レナも巻き添えを食って被害を受けますが、最後にはボニイと仲直りし、アランも天からの導きで天国のクリスチーヌのもとへ昇天していきます。

 楽しいストーリーですが、例によってページ脇にくどいほどの解説がついています。一部をあげると、「ひとりぼっちのレナが、いよいよ、きょうから住むおやしき、りっぱなんですが、なんともはや薄気味のわるい!」、「こわいよ〜助けて〜、必死のレナですが、幽霊くんことアラン君も、クリスチーヌさま…と必死です!」、「恋仇とあっては、おもしろくないアラン君。あの手、この手で、ボニイをやっつけます…」、「そっけないボニイの態度に、アラン君、クリスチーヌさまが気の毒になって…」、「ロッドのいうことなんか…とは思っていたレナですが、ボニイからの意外な電話に、心中おだやかではありません」、「ふられたはずのレナからのさそいにロッドは…」、「つきおとされ気をうしないながら悲しみでいっぱいのレナの目の前に、やさしいアランが…」、「レナは幸せで胸いっぱい…でも、アランにさようならを言われて、ふっと悲しいようなさびしいような気持ちに…」(これで約半分)。

雪女の森 デラックスマーガレット1970年冬の号
コミックス未収録
 こやの先生の唯一のSF作品です。

 スキーに来たひろしは、山小屋のおじいさんから絶対に行ってはいけないと言われた雪女の森に入ります。崖から落ちて気を失うひろし。気がつくと、髪も肌も口も、目の色さえも真っ白な少女に出会います。

 さらに奇妙な建物の近くで、同じように真っ白な青年に光線銃で襲われます。ひろしが応戦すると、その青年は溶けて消えてしまいました…。

 実は彼らはパール星人という宇宙人で、脳だけになり突然変異を起こしたパール星人に操られ、あの少女が生き残ったパール星人の最後のひとりとなっていたのです。脳と言い争う少女を影から盗み見たひろしは…。

 脳だけの宇宙人、テレパシー、光線銃、宇宙船などSFの小道具が出てきて、24ページというぺージ数から考えるとそれなりのSF作品に仕上がっています。人の心が読め、しかもパール星人 (その少女を除く) を操ることができる「脳」が、ひろしの接近になかなか気づかないのはまぬけですが、それはさておいて、パール星人の少女 (名前は出ません) とひろしとの心の交流 (つーか、恋愛) まで描ければもっと良かったように思われます。

風のメルヘン 別冊マーガレット1970年6月号
コミックス未収録
 どろぼうのジノはある夜大豪邸に盗みに入り、そこでその家の一人娘の幼いマーシャに見つかってしまいます。マーシャはジノを風の使いスインピーと勘違いし、いっしょに遊ぼうとします。実はマーシャの母は病気でマーシャから隔離されたため、マーシャは引き離した父を恨んでいたのでした。

 父が帰宅後、その家の運転手が大事な書類を盗もうと強盗に入ります。マーシャを盾にとってでもという強引なやり方に怒りをおぼえるジノは、人質になったマーシャを助けるために飛び込みます…。

 1970年はこの作品が最後です。こやの先生がまだ高校生だったからだと思われます。まだ別マ時代の画風は完成されておらず、完成には本格的にマンガ家稼業を始めた翌年まで待たなくてはなりません。なお、この頃になると、雑誌ページ脇の解説は激減しています。

もしも悪女が恋をしたら 別冊マーガレット1971年2月号
コミックス未収録
 ロコこと路子は兄の婚約に反発して不良少女グループに入り、いろいろと問題を起こしますが、そのたびに不良学生の柳に助けられます。不良グループにはやしたてられて柳とキスをするはめにもなる路子。しかし不良グループは路子を笑い者にするために仲間に入れていたのでした。

 不良グループから離れようとする路子は服を切り裂かれてリンチにあいかけますが、またも柳に助けてもらって、柳は路子の「ボディーガード兼恋人ちゃん」(路子談) になります。実は柳の正体は…?

 約半年のブランクを経て、本格的に作家活動を始めた年の最初の作品です。こやの先生の絵柄は別冊マーガレット時代と花とゆめ時代とで大きく分けることができますが、別冊マーガレット時代の画風を確立されたのは'71年の半ば頃です (すでに「ラブ♥ホームイン」では完成されています。ちなみに'74年頃には目がかなり大きく描かれるようになっていますが、それは一時的なものでした)。'71年最初のこの作品では、まだ以前の未熟な画風を少し引きずっていますが、「風のメルヘン」とくらべるとかなりこやの先生らしい絵柄になっています。

ラブ♥ホームイン 別冊マーガレット1971年7月号
マーガレットコミックス「ラブレターひきうけます」
 野球部のマネージャーのジョスリィは、実質はコーチで弱小野球部をびしびしと鍛えています。男子に人気のあるジョスリィなのに特定の男の子とつきあうことはしません。実は幼い頃に自分の不注意でプロ野球選手だった父をけがさせ、選手生命を絶ったことが心の負い目となっているからです。

 そんな野球部に、自分を鍛えてこいと父親に言われてエディが入部してきます。エディは野球がまったくできないので、ジョスリィが特訓をして鍛えます。一方名選手のビントはジョスリィに横恋慕しますが、ていよくふられてはらいせにエディを襲います。

 エディのけがに自分の父のけがを重ね合わせ、自分を責めるジョスリィ。しかしエディは、転校したビントのかわりに努力し、チームの初勝利を目指します。そんなエディの姿を見て、ジョスリィはようやく心のかせを解き放つことができたのでした…。

 さて、少女マンガといえばヒロインのファッションも見どころのひとつでしょう。このマンガでもジョスリィは次々と服を替えています。ただ、問題は、それが野球のコーチをしている最中なのに、という点です。

 右の図を見て下さい。一番左は最初にジョスリィが着ていた服で、まあ活動的でよいでしょう。ところが左から2番目の、首から長いスカーフをたらしているのは、エディにバットの素振りをさせている横で着ている衣装です。邪魔なだけでなく、バットにからまりそうで危険ですね。

 左から3番目、4番目も同様で、練習中と試合のベンチの中での格好です。右から2番目は部員にノックをしているところですが、コルセットみたいな衣装でおなかをしめていては苦しくて動けないのでは?

 極めつけは一番右の、太いひもの飾りのついた服です。これもベンチの中で着るものじゃぁないでしょう?

 …ということで、別に作品の本質に関わることではないのですが、たまにはツッコミも入れてみました。

幸せをよぶ“ラッキー” 別冊マーガレット1971年11月号
コミックス未収録
 気が強いが心やさしいペギーは小さな広告代理店の社長の一人娘。ところがサンデー製菓カンパニーの宣伝部長が新商品「エンゼルキャンディ」のCMを、ミス・ティーンのサニタと有名カメラマンのエドを使ってアフリカでロケをして2週間以内に製作しろと、ペギーの父親に難題を突きつけます。何とか手はずを整えてアフリカまでやってきたペギーたちですが、サニタのわがままに振り回されて大変。

 サニタの衣装を川に流した現地のカコチャン族 (!) の少年をサニタからかばったペギーは、カコチャン族のリーダーから守り神であるワニのラッキーをもらいます。エンゼルキャンディを与えてラッキーと仲良くなるペギーはエドにも気に入られて、サニタのかわりにモデルをつとめるようになります。機嫌を損ねたサニタはアメリカへ帰ろうとしますが、ジャングルの中で白人を憎むタムタム族につかまってしまいました。

 ペギーは危険をかえりみずサニタを助け出しますが、今度は彼女がつかまってしまい、危ないところをラッキーが仲間を引き連れて助けにいきます…。

原画コレクション参照

 変わった動物を飼う少女が主人公という設定は前々作の「わたしのハムレット」と同じですが、この作品ではアフリカのジャングルでワニのラッキーがいきいきと活躍する様が描かれています。それがペギーの元気のよさと相乗効果を生み出し、魅力的な作品に仕上がっています。ダチョウのハムレットは最後には病気になってヒロインのケティと別れてアフリカに返されますが、ペギーといっしょにアメリカにやってきたラッキーはしぶとくエドとの仲を邪魔しそうです。

暗闇のロマンス デラックスマーガレット1971年秋の号
コミックス未収録
 ロマンチックな大恋愛を夢見るアン。そんな娘を心配して両親は大農園主レーズン氏の息子と婚約させようとしますが、相手の家へ行く途中で車が故障し、ひとり残されたアンはマイクと出会います。実はマイクはインカ帝国の財宝の地図を持ち、悪人に追われていたのでした。

 まもなくマイクに再会するアン。ところが悪人たちに2人ともつかまり、地下牢に閉じ込められて水攻めにされてしまいます。

 何とか脱出し、財宝を求めて南米に飛ぶ2人。彼らの行く先は何と…?

 テンポよく進むラブ・サスペンス (コメディ?) で楽しい一品です。
原画コレクション参照

 当時のデラックスマーガレットは、高橋真琴先生の表紙が特徴で、別冊マーガレット (150円) より薄いのに170円とやや高価でした。この号にはほかに美内すずえ先生や和田慎二先生のマンガも載っていますが、作中に前者は人種差別とハンセン病患者、後者は口のきけない少女が出てくるため、今日ではちょっと公開できない作品です。

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(仮想) こやのかずこ選集 [文庫本版] 原画コレクション 未発表作品

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